漫画家のためのトリセツ【2章】プロ漫画家が聞く!デジタル時代の「製版・超入門」

ウェブトゥーン(縦スク漫画)のコミチ

・2章 漫画家を悩ませる「モアレ」の原因 

――次は、漫画家さんたちを悩ませる「モアレ問題」について聞いてみましょう。これはトーンの貼り方を気をつけることで、かなり解消できるようです。

おかざき モアレ、よく見かけます…。以前トーンを重ねていないのに、モアレたこともありました。拡大、縮小やアナログからデジタルへの変換の都合かなと思いましたけれど。

Ken太郎 先ほど説明した通り、印刷物は網点でできています。細かい目の網戸を想像してもらうとわかりやすいですが、2枚違う方向に重ねると、違う模様が浮き上がってきますよね。まさにあの現象で、規則正しく並ぶ網点同士が干渉して、「モアレ(干渉縞)」という独自の模様を、印刷物に浮き上がらせてしまう。典型的なのはトーンの重ね貼り、いわゆる「ダブルトーン」です。線数の違うトーンを重ねると、点が接触しているところと離れたところの重なりによって、印刷後にほぼ確実にモアレが発生します。データ上では目立たなくても、印刷してみると出てくることが多いですね。

<(ダブルトーン違う線数)モアレあり>

おかざき トーンの線数が同じなら、モアレは出ないと考えていいですか? 例えば、同じ線数で網点10%と20%のトーンを重ねるとか。

Ken太郎 同じ線数を同じ傾きで、点と点が接触しないように重ねればモアレは出ないはずです。同じ線数でも、貼るときに角度がずれるとモアレが発生することがあります。


<(ダブルトーン同じ線数、同じ角度)モアレなし>


<ダブルトーン(同じ線数違う角度)モアレあり>

Ken太郎 ただ、掛け合わせて出る柄はもちろんあります。僕の考えとして、作者が意図的に重ねたトーンは独自の柄が出てもオーケーとし、いじりません。

青木 意図的にモアレを出そうとする場合もありますからね。

うめ小沢 雑誌だと、多少荒れていても“味”に見えたりするし。

Ken太郎 そのほか、細いストライプや水玉といった模様は、印刷の際に網点が干渉しやすい。あと多いのは、入稿時の原稿サイズと印刷サイズが違うために縮小したり、漫画家さんがトーンを貼った後に拡大・縮小・回転したりする場合。網点が変形すると、モアレが起きやすくなります。原稿は基本的に二値化した後にいじらず、原寸で入稿すること。これは、モアレを防ぐことにつながります。

K野 あとは、データにアンチエイリアスがかかっている場合も、モアレが出ます。モニターで見る分には問題ないですが、印刷物にすると、モアレの原因になります。

青木 アンチエイリアスって要するに、デジタル画面で線を滑らかに見せるための補正技術ですよね。文字や模様の輪郭にグラデーションをかけて、きれいに見せる。

Ken太郎 グレースケールで入稿された原稿を、製版時にRIPを通して網点化したときに、モアレが出るというのがよくあります。基本的には、モノクロで印刷する原稿には、入稿時にアンチエイリアスを外すように設定してください。


<アンチエイリアスがかかった原稿RIP前>


<アンチエイリアスがかかった原稿RIP後>

青木 あと、グレースケールの上に網点を置いている原稿。これはきっと面倒でしょう。

K野 おっしゃる通り。しかも、こういう原稿が最近増えていて、とても悩ましい。

Ken太郎 最初からグレースケールで届いた原稿は、一括処理で網点化します。媒体にあわせて、何線の網点化が必要かを計算し、RIPを通す。その際、網点の角度を15度とか22度とかに少し変えてあげることで、規則性が崩れてモアレが発生しにくくなります。こういう細かい調整を行いながら、全体を一気に二値化し、作業を進めていきます。厄介なのは、いまおっしゃったような、二値化されている原稿の中にグレースケールが混じっているパターン。1箇所だけグレーになっているところを見つけ出して、修正しなくてはいけない。この作業は時間がかかりますね。


<グレースケールにトーンRIP前>


<グレースケールにトーンRIP後>

稚野 グレースケールとトーンの混合というのは、アナログ原稿を作っている私たちには関係のないことですか。

Ken太郎 そうですね。ただ、アナログでも、薄墨の上にトーンを貼る場合があります。実は、こういう原稿はすごく製版の作業が大変で……。薄墨はグレースケールと同じで、網点化が必要なんです。なので、スキャニング後データ上で、スクリーントーンが乗っているところを切り抜いて、薄墨を網点化して、もう一度貼り直しています。これも、かなり作業量が多いです。

おかざき 薄墨は、アナログだけど2値化しないと印刷に向かないんですね。ハイライト製版やオフセット印刷でないと綺麗に再現できないと聞いたことはあります。


2章まとめ

・トーンを重ねるときは、線数を合わせよう

・原稿を2値化したあとに大きさや角度をいじると、モアレが起きやすい

・モノクロ印刷用の原稿にアンチエイリアスをかけると、モアレの原因になりやすい