会社員です、@SHARP_JP です。フィクションの舞台になったことがない仕事は、もうないのではないか。あらゆる種類のポピュラーミュージックが生み落とされ、魅力的なメロディーはすべて出尽くしたといわれるように、マンガでもドラマでも映画でも小説でも膨大な作品の中に、あらゆる職業はもうすでに描かれているのかもしれない。公共のトイレを掃除する人を描く詩的な映画がさいきん話題になったし、私は体外受精を行う胚培養士のマンガをさっき読んだ。サラリーマンが主人公である物語など、だれでも無数に思い浮かぶだろうし、企業のSNSアカウントを運営するという私の仕事ですら、それを舞台にしたマンガがあるのだ。
あらゆる職業がフィクションで描かれてきたのなら、どんな職業の人も一度は架空の世界における自分の仕事を見つめたことがあるのだろう。そこでは常に、自分以外のみんなは物語を所与のものとして楽しむ中、ひとりだけ「そうそうそんな感じ」と「実際はちょっとちがう」を行ったり来たりしているのかもしれない。もちろん作者は、その理想と現実をどのように描くかをたいへんに苦心されるのだと思うけど、いつもどこかにフィクションとノンフィクションを同時に味わいながら読んでしまう人がいるのはおもしろいことだなと、私なんかは能天気に思う。
とかいいつつ私はサラリーマンでありながら、いつもサラリーマンが描かれた物語を「そんなやつおらんやろ」と思って読むから、私は一度たりとも真剣にサラリーマンを仕事にしてこなかったのかもしれない。それはそれでどこか非常に問題であるような気がしている。
真剣!侍ナース 第20話(梅元とうふ 著)
ドラマで描かれる職業といえば、刑事と探偵、そしてナースや医者といった医療に従事する人ではないか。それらが描かれた作品は圧倒的な数にのぼるだろうし、実際にその職業に従事する人たちは、いつも「またかよ」みたいな気持ちでいるのだろうか。もとより現実離れした出来事に対処しなければいけない仕事だからこそフィクションの舞台に選ばれることも多いはずで、そこで働く人たちはそもそもフィクションへの耐性が強いような気もしてくる。
だからたぶんこのマンガで描かれているように、フィクションへの耐性が強い仕事に従事される方は、「それはそれ、これはこれ」という境地に行き着くのだろう。たくましいなと私なんかには思えてきて、なんだか頭が下がる。とはいえ元も子もないことを言えば、見目麗しい人々が自分の職場で働いていることこそがもっともフィクションなわけで、そこを楽しもうよとする姿勢はあらゆる職業の人に共通するものにちがいない。結局は鏡に映る自分が、悲しいことにもっともノンフィクションなのだ。ではみなさん、きょうも地味に真面目に働きましょう。