ビニール傘は買わないと決めています、@SHARP_JPです。一度手を出すと罪悪感なしに買っては失くしてしまいそうで、最初の一歩を踏ん張っている。私の生活圏なんてたかが知れた範囲なので、濡れたところでさして困らないという気持ちもある。


晴れ女あるいは晴れ男という言葉がある。なんら目新しい話ではないけれど、自分やあなたがそうかどうか、語り合うこともたまにあると思う。だれも傷つけないし真偽の確かめようもないので、世間話における平和な話題のひとつだろう。


ただしコマーシャルの仕事に関わっていた時の私は少し様相が違った。屋外で撮影することが多かったその仕事にとって、撮影の日に雨が降るか降らないかは、それを期日内に納品できるかどうかに直結するのだ。究極に忙しいタレントさんが出演する場合にいたっては、皆で空に祈りを捧げるような雰囲気さえあった。だから撮影前の準備では、スタッフの中に晴れ人間が何人いるか、なかなかの真剣さで語られていた。


もちろんどういう映像を撮るかにもよるけど、屋外の撮影は必ずしも快晴である必要はなかった。それよりも「雨が降らない」という状況が一定時間続くことが肝心だったと思う。晴れてくれと贅沢を望むわけではなかったのだ。だから私はいつも、晴れ男・晴れ女をカウントする時は堂々と手を挙げることにしていた。晴れ男とまで言い切る自信はないけれど、少なくとも「雨に降られない男」として自己申告していたのである。


#ゆり家の1コマ 大学時代に晴れ女になった(hayamiyuri 著) 


実際に私は、そうとうな確率で雨に降られない。たとえ前日の晩から雨が降り続いていても、朝出勤するために家から出る時間にはふと雨が止む。雨の日中にどこかで働いていても、次の場所へ向かう時間だけはぽっかり降り止むことが多い。決して雨が終わるわけではない。雨が一時停止するのだ。


だから正確に言うと私は晴れ男ではないのだろう。せいぜい濡れない男だ。だからこのマンガの晴れ女さんのように、目の前で雨が止むとか雨雲が割れるという、神がかった経験は一度も起こしたことがない、たいそう地味な晴れ男寄りの人間である。


だけどほんとうに私は傘を使う機会が少ないのだ。ビニール傘を持たない生活が続いているのも、かばんに忍ばせた折り畳み傘が使われないのも、私が雨に降られない人間であることの証左だと思うのだが、そこまで検証を求められることはない。私がいたって、晴れるわけでもなく、雨が止むわけでもない。雨に濡れずにすむだけなのだ。


ただなんというか、雨に濡れないという効能は、ギリギリで最悪の事態を回避するという意味で考えれば、わりと私の心の支えになっていたりはする。ビニール傘を持たないことで私は、自分の地味な能力を慰めているのだ。