春ですね、@SHARP_JP です。あちこちで引越しのトラックが止まっているのが目につくし、ここを読む人の中にも、まだ部屋でだらだらネットを見る時の定位置が決まらない、新生活一週目みたいな人がいるかもしれない。ひとりの夜、初々しい家具と家電に囲まれて、スマホを手に落ち着かない体勢で読まれるのも光栄な気がする。そんなどこかだれかの新生活にいずれ、私の文章をちまちま読むよりずっと楽しい時間が訪れますように。
東京じゃないところで生まれ育ったものの、上京という行為をしたことがない人生だから、私は新生活への有益なアドバイスなど持ちあわせていない。歳をとった私は、東京がないものがすべてある完璧な場所でないことくらい知っているが、いまだにうっすらと、上京して東京で暮らすことへ憧れを抱いていたりする。
新生活。いくら検索しようがYouTubeで見ようが、なにもかもが目新しい巨大な都市に実際に住みはじめる時の情報量にはかなわないだろう。それは恋愛のはじまりと似ているのではないか。目に入るものすべてがくっきりと輪郭を持ち、なにもかもが彩度を増して見えるあの感じ。あくまで想像だけど。とはいえ私も大人だ。ましてや家電メーカー勤務である。上京したことがなくとも、新生活を迎える人たちにアドバイスのひとつくらいある。
新生活をはじめる人よ、どうか冷蔵庫は大きめを購入してほしい。あなたはこれからどんどん変わる。生活もどんどん変わるだろう。必要に迫られて、あるいはそこに楽しみを見出して、自炊をはじめるかもしれない。酒の味に凝るかもしれない。なにもかも嫌になって暴食したくなる時だってあるかもしれない。そんな時に備えて、冷蔵庫を大きくしておくのだ。あなたの変化を、懐の大きな冷蔵庫はきっと受け止めてくれる。
未来のあなたを見据えて、冷蔵庫は大きく。
私からは以上です。
はじめての一人暮らし(中恭 著)
娘が新生活に旅立つ日のマンガ。上京したことのない私でもグッとくる。期待に胸を躍らせる娘の視点ではなく、見送る側である母親の目で静かに語られるところが、とりわけ心に迫るポイントだろうか。
思えば、新生活は常に2つ、対となってはじまるのだ。旅立つ側も見送る側も、翌日からは新しい暮らし。上京ではじまる新生活は、地方でも新生活を開始させる。この時期に引越しのトラックを見かける回数は、その倍の数だけ新しい生活がはじまっている。
2つの新生活に違いがあるとすれば、冷蔵庫だろうか。旅立つ側は冷蔵庫の空きが必要であり、見送る側は冷蔵庫に空きができる。大きな冷蔵庫が望まれる生活と、冷蔵庫が急に大きくなったように感じる生活。願わくばどちらも、変化をやさしく受け止める冷蔵庫でありますように。