あこがれの豊聡耳、@SHARP_JP です。こんな私でもこんな歳になると、人前に立つことがある。会議とか打ち合わせは、怒られようが褒められようがどうせ仕事だしなと昔からあまりシリアスにとらえない性質だった(その性質を怒られることはある)し、講師といった肩書きで何らかを教えるという体裁や、だれかとトークしてくださいといった場合での「人前に立つ」も場数を踏むうちに慣れてしまった。
もちろんここで言う慣れとは、私が緊張しないという意味であって、人前に立った時に毎度毎度、私の前にいる人たちが楽しみ、来てよかったと思ってもらえるようになった、という意味ではない。そこははなはだ自信がない。そして慣れた中にも、いまだ私の身が強ばる時間がある。講師やトークをやった最後に訪れる、「なにか質問はございませんか」というアレだ。
質問はないよりあった方がうれしい。質問がない時の、静寂が音として聴こえてくるような、あの無の時間は話す人・聞く人どちらにとっても苦痛だと思う。だが私にとってそれ以上の問題は「いくつもの質問をおりまぜてひとつの質問をする」人が現れた瞬間にやってくる。
スッと挙手があり、回されたマイクから「ふたつ、お答えください」が聞こえた時から私の緊張ははじまる。質問をぜんぶ、覚えなければいけないのだ。そしてその順序どおり、回答していかなければいけないのだ。座ってメモでもとれる形式ならまだしも、私が呼ばれるのはせいぜいスクリーンを背にぼんやり立つ、貧相なTED形式か、バーカウンターにあるような、心配になるほど細い椅子に座って話をする場所である。
だから私の足りない頭は必死で回転するも、2つめの質問を投げかけられるそばから、1つめの質問がおぼろげになっていく。苦肉の策で記憶が鮮明な質問から逆回転で答えていく方式をとるも、私の心は次の質問が何だったかを思い出すことに必死でここにあらず。あるいは次の質問へ意識が混濁し、1.5番目の質問に延々と答えるといった惨事になってしまうのだ。そして結局、「で、もうひとつはなんでしたっけ」と失笑を買うのである。
1ページで完結する漫画 赤ずきんちゃん(土田えり 著)
つまり今日はみなさんに、ひとつだけでも覚えて帰ってほしいのはこれだ。
「まとめて聞くな」
以上、ご静聴ありがとうございました。