言葉が好きです、@SHARP_JP です。私たちはなにかとすぐに「語彙力がない」と嘆くけど、実際のところどうなんだろう。なにか名状しがたい事態や感情に直面し、どうにかそれを口述なり記述したいと思う。まったく同じ体験を他人が追体験することは不可能だけど、その実体にかぎりなく迫った言葉で伝えたい。言語はどこまでいっても私とあなたが知っている言葉の組み合わせでしか成立しえないから、その時の私たちの頭は、ちょっと引くくらい高速で回転しているのだろう。なんとか私の景色をあなたに移動させようと、ベストな言葉の組み合わせを探しに探すのだ。
しかし、どうにもわれわれには時間がない。会話ならテンポをキープしなければならないし、チャットは小気味よく返信せねばならぬ。ツイートには瞬間の旬というものがあり、そうでなくともわれわれは、言ってるそばから忘却してしまうのだ。だからなんとか自分で納得のいく言葉の組み合わせを見つけ出す前に、語彙力がないと力なく笑いながら、私たちは言葉を諦めてしまうのではないか。
さいきんはChatGPTだなんだと、これからを生きる人間はもはや言葉を司る脳を外部化してもいいのではないかと決断しそうな勢いだけれど、そう言いつつも一方で私たちは、私とあなたが知りそうな言葉を語彙として着々と増やしている。あいかわらず今年の流行語や中高生のスラングがランキングされ、SNSではフレッシュなフレーズが改変されながら増殖し、会議やプレゼンでは珍奇な横文字が飛び交っている。私たちはそこから、じわじわ言葉を摂取し、あいかわらず語彙をコツコツと耕している。
たぶんわれわれはみんな、語彙力がある。ただあまりに言葉を発せと迫られるタイミングがはやすぎて、じっくり考えられないのだ。腰を据えて組み合わせを探れば、自分がしっくりくる言葉はきっと見つかる。語彙力がないと嘆くくらいなら、もうちょっと時間をくれ、と言い訳すればいいのかもしれない。
『なんでもない日』第27話「夫の謎基準」(オムスビ 著)
幼い子どもを観察していると、語彙が豊かになる瞬間がありありと見てとれる。知らない言葉を躊躇なく使ってみて、その反応から言葉の正解までの距離すら測っているように見える。おそるおそるがなくてダイナミックで、惚れ惚れしてしまう。
一方大人は、新しい言葉をこわごわ使う。それの持つ意味は正しいか、それを使う5W1Hは適切か、それを使う自分は他人にどう映るか、あらゆる方面と文脈からの正誤の距離を先読みしようとする。それはこのマンガで「リベイク」を口にしようと、もじもじする夫さんがよく体現しているだろう。
リベイク。さいきんとみに見聞きする言葉だ。私もオーブンレンジの新製品の広告で、おそるおそる使った言葉である。しかしパンの温め直しとか焼き直しと言えばいいじゃないか、という保留な気持ちもあるにはある。だから、あなたがリベイクという言葉を口にするのを聞くまで、私はリベイクを語彙に加えることはない。結局のところ、あなたと私が知っている言葉の組み合わせでしか、なにも伝えることはできないのだから。