シャープさんの寸評恐れ入ります我ネットで買う、ゆえに我あり

ウェブトゥーン(縦スク漫画)のコミチ
旺盛に買います、@SHARP_JP です。ネットで買う、あるいはスマホで買う、がわれわれの生活の中ですっかり定着してしまった。みんな、10年ほど前を思い出してほしい。もう少し、インターネットを介してモノを買うことに、注意や躊躇があったのではないか。
私の仕事は本来、買うことを促すことであり、それもどちらかというと「ネットで買う」を推奨するものだから、いまの状況はウェルカムにちがいない。私の名刺の所属には部署名にデジタルの字が冠されていることからもわかるとおり、私の働く会社の製品がネットで買われれば買われるほど、私の仕事や私のいる部署の重要さが相対的に増していく。
しかし今となっては「驚くべきことに」と私なんかは皮肉を込めたくなるほど、最近まで社内や業界では「なんだかんだいって家電はネットで売れない」と評されてきた節がある。特にテレビや冷蔵庫など、ある程度高額な金額になるモノやひとりで設置できない大きなモノは決してネットで売れることはないと、なかば偏見の目を向けられてきた。
どうやら実際はそうでもなかった。平気でテレビも冷蔵庫もネットで買われるようになったのだ。もちろん「お店で見て触って買う」がすべてネットに置き換わったわけではない。ただ「そんなことあるはずがないだろう」と決めつけられていた行動が、儲けたい側が売上のためにそうとう依存する程度には、多くの人が採用する当たり前の行動になったと思っている。ネットさまさまだ。
その理由を「便利だから」で片付けることもできるけれど、私にはカートから決済ボタンを恐る恐る押す時の「ちゃんと届くのか」とか「思っていたのと違ったら」という心配が杞憂だった経験の、10年分の集積に見えてくる。かつて買った人の小さな勇気と、それに関連する仕事に従事してきた人の努力に思いを馳せてしまう。そうやって買う場所と手段としての信頼を、ネットはお客さんとの間でコツコツ積み上げてきたのだろう。
私が通販の失敗を未然に防げた理由(海原こうめ 著)
私もすっかりネットでなんでも買う人間になった。インターネットを介して本や音楽を買うようになったとたん、買い物の境界線が溶けてしまった。洗濯機もスマホで買うし、水も米もネットで買う。たぶん私はいま、生活にまつわるモノをすべてインターネットを介して買っている。ネットで買わないモノといえば、パンくらいかもしれない。
ただしひとつだけ、いまだにネットで買って失敗し続けているモノがある。オシャレ方面だ。このマンガと同じく、洋服をネットで買うことに関して、私は懲りずに失敗を繰り返している。つまり、思っていたのと違う、というアレ。
失敗の理由はうすうすわかっている。われわれは、画面上の洋服を脳内で試着し、手持ちの服との組み合わせを各種シミュレーションの上、ネットやスマホで服を買う。その脳内の試着が問題なのではないか。いまよりちょっといい自分を実現するのが洋服の使命なら、それを着る自分を想像することは常に盛られる方向にあるのだろう。私たちはなりたい自分があるから、ネットを介してまで服を買うのだ。
洋服を買う私はいつも、それを着る未来の私に多めの期待を寄せてしまう。そして届く服への期待値を上げてしまうから、往々にして現実にがっかりする。しかしこれはネットのせいではない。ネットで買った服を着こなす自分を、過度に信頼する自分が悪い。私はもっと、脳内で試着する自分に杞憂しなければいけないのだ。