私の師、出走済み、@SHARP_JP です。年を食ってくると、春夏秋冬とは別に、独自の年サイクルが確立される。だいたいは職業ごとに分類されがちな、固有の季節の巡りだ。そもそも労働は、忙しくなったり落ち着いたりを繰り返す。だれでもそこそこ長く働いていると、忙しさの満ち引きによって、四季以上に月日の経過を感じるようになるのではないか。無粋なことだが。
私の仕事は、できるだけたくさんの人がモノを買うように促すことである。だから私の繁忙期は、人がさてモノでも買おうかとソワソワする季節の前月が当てはまる。ソワソワするのかソワソワさせられるのかは微妙なところだが、12月といえば人が合法的に散財してモノを買ったり、あるいは半ば強制的にモノを買わされる季節だろう。だから逆算して、まさにいまがモノを買ってもらう準備に奔走する時期である。私の師走は、世間より少し早いのだ。みなさまにおかれましては、いまから財布の口をゆるめておいていただけますと、たいへんありがたく存じます。
それにしても私の職業上の年サイクルに、今も昔もおどろくほど変化はない。主にどこを舞台にして人にモノを買うことを促すかについては、私の仕事もけっこう大きな変遷を遂げてきたのに、やっぱりいつも忙しいのは初夏と初冬である。つまりは、ボーナス前という季節である。
ここまで雇用や収入の手段が劇的に変わってしまった社会でも、いまだに私は同じ季節に忙しい。ボーナスがある人とボーナスがない人とボーナスを見たことがない人が混在する今も、あいかわらず私はボーナスが当たり前にある社会と同じサイクルで忙しくしているのだ。ないものをあると信じて起こす行動にはロマンがあるけど、あったりなかったりするものをあると信じる行為にはうっすらと呪いを感じてしまう。だから私は、けっこう疲れてしまった。
1Pマンガ 第902話(まるいがんも 著)
いまこれを書いている喫茶店の窓の向こうにも、クリスマスツリーが見えている。大きくて立派なツリーだ。きれいだなと思うと同時に、その変わり身のはやさにはやっぱり苦笑してしまう。
まあしかし。人にモノを買うことを促す側から見れば、その変わり身のはやさもわからくもないのだ。準備はできるだけさっさと済ませて、本番の稼働期間を長くしたい。モノを買おうかとソワソワしてもらう時間は、可能な限り長く確保したいのだろう。
かくして消費の季節は、前倒しが常習化する。そもそも人に先立つものがあるのかないのかには目をつむり、モノを売りたい側は季節を圧縮したり引き延ばしたりする。そうやって私もあいかわらず、いびつな季節の巡りを作ろうとしている。